今回紹介する映画は、私をB級映沼に引きずりこんだまま噛みついて離さない、まさに元凶。
本国ではゲーム化やアニメ化もされるなど、シリーズ最終章を迎えた今でもサメ映画の傑作として語られるトンデモ人気のサメ嵐。

『シャークネード』
公開:2013年
原題:SHARKNADO
監督:アンソニー・C・フェランテ
出演:アイアン・ジーリング、タラ・リード、ジョン・ハード、キャシー・スケルボ、ジェイソン・シモンズ
製作:アルバトロス
配給:アサイラム
製作国:アメリカ合衆国
上映時間:88分
⒞2013 THE GLOBAL ASYLUM INC.
キャッチコピー:人喰い鮫×巨大竜巻!!史上最凶の瞬間最大風速がついに日本上陸!
個人的な評価 7/10
引用元:Youtube – Albatrosmovie

常識を覆されました!本当に衝撃だった!
個人的には好きだけど、「面白い」と言って人には勧めません。
勧めるときは2とセットで勧めるか、とりあえず2だけでも楽しめると言って勧めるくらいのTHE・B級。
- Amazon
- Yahoo!映画
- Googleユーザー評価 56%
Yahoo!映画とGoogleの評価を見ての通り、Amazonはサメ映画好きのレビューによって評価が上がりやすい傾向にあります。
初見時の衝撃


運命の出会いは2014年11月30日。多分。
この時まで映画という娯楽にあまり興味がありませんでした。
それが「コメントつきなら楽しめるかも」と、某動画サイトの『シャークネード』24時間ループ生放送の最終回に滑り込んでしまったのが運の尽き。
飛び交うサメ、分かりやすいCG、ツッコミの追いつかない1時間半。
初めて観るタイプの映画に感想は一言「なにこれぇ……」でした。もちろん良い意味で。
サメが飛ぶ?水位がおかしい?こまけぇこたぁいいんだよ!!



映画って疲れるから苦手だったんだよね



2時間ほど座りっぱなしだからな、分からなくもない
楽しめる映画でなければ尚のこと、座りっぱなし黙りっぱなしの2時間とは長いものです。
「面白かった」以外の感想のために黙々とスクリーンに向かうのは堅苦しい。
特に映画館では周囲への配慮は大事なマナーに違いありませんが、求められるマナーが年々厳しくなっている印象があります。
映画とは、ジッと座って静かに観るもの。
シャークネードはそんな、私がいつからか抱いてしまっていた映画という娯楽に対する固定観念を粉微塵にぶち壊してくれたのです。
この24時間ループ生放送は、その後の放送が日本初公開となる続編『シャークネード カテゴリー2』の宣伝のためのものでした。
まんまと当日券を買うことになってしまったほどの衝撃。
1も2も何度タイムシフトを観たことでしょうか。
挙げ句の果てには映画配信サイトへの登録を経て作業用BGMと化す始末。
時間を喰い尽くすのみならず、生活にまで溶け込んでくるサメこわい。



あ〜こわい、サメ映画ってこわいな〜



あからさまな饅頭こわい
あらすじ


カリフォルニアのビーチに大型のハリケーンとサメの大群が押し寄せる。いつもの賑わいを見せていたビーチは、一瞬にしてパニックに陥った。
嵐による暴風、高波、そして飛んできたサメにより、主人公のフィン・シェパードは店を失ってしまう。
意気消沈したのも束の間、ハリケーンの勢力は衰えぬまま内陸へ向かうと聞いたフィンと仲間たちは車に乗り込み、フィンの元妻であるエイプリルと娘のクラウディアの住むビバリーヒルズへと急いだ。
大切なものを守るため、主人公と仲間たちが大嵐と降ってくるサメに立ち向かう映画です。
独断と偏見による人物紹介


本作の中心人物たちを紹介します。
登場人物は多めですが、ほとんどがモブです。
そして登場する人数が多いぶん退場する人数も多いのがシャークネード。
しかもペースが早い。モブに厳しい。
それゆえに最後まで混乱することなく観られるのではないでしょうか。
シリーズ1作目となる本作では、主人公勢とはいえ正直そこまでキャラが濃いわけではありません。
キャラが壊れ立ってくるのは2作目以降のお楽しみです。
『シャークネード』の魅力



飛ばないものを飛ばす!つまり面白い!



なんという暴論
「面白いから好き」でいいんですけど、好きなものってその魅力を語りたくなるじゃないですか。なりますよね。なので5つほど語ります。
ほどよいB級感


※巻き上げられている船です
「これぞB級」といった程よいチープさ。
1人でも大勢でも観てよし・語ってよし・ツッコんでよし、素晴らしいエンターテイメントに仕上がっています。
最初から最後まで勢いに任せて楽しめるコメディホラー、もといディザスター&モンスターパニックです。
ストーリーの勢いも満載なツッコミどころも全部ひっくるめて好き。
ツッコミを入れるだけの冷静さを僅かに残して、あとはカラッポの状態で笑いながらスクリーンに向かう没入感が本当に最高なんですよ。観終わってみれば全然カラッポではないんですけど。
B級と思って侮るなかれ。



サメが海の生き物だって?まさかあ!



これが手遅れの人間です
サメの種類が豊富
サメ映画で主役として取り上げられるサメといえば、メガロドンかホホジロザメをイメージする方が多いのではないでしょうか。
しかし本作はシャークネードに巻き込まれている全てのサメが主役。
ここぞという場面ではホホジロザメが目立ちこそすれ、作中ではイタチザメ、シュモクザメ、コバンザメの名前と姿を確認できます。
作品を重ねるごとに種類と活躍の幅が広がっていくのもお楽しみ。
余談ですが現在、サメは3分の1が絶滅危惧種に指定されています。こんなに巻き上げて大丈夫なのかと要らぬ心配。
実は細かい設定
本編で明かされない設定は、後述する小説で補完されています。小説版は解体新書。
その中でも思わず「なるほど」と頷いてしまった設定を2つ紹介します。
冒頭の船は密漁船


本編が始まってすぐに登場した船。のちの展開から分かる通り、その役割はシャークネードがどういうものかを分かりやすく示すことです。
しかし、それだけならば船上の不穏な雰囲気はなんなのか。
あの不穏さはアメリカのサメ漁事情を知らないと理解しづらいシーンとなっています。
「サメは3分の1が絶滅危惧種」とは先ほど述べた通り。
というのも、高級食材のフカヒレとなるサメを狙った乱獲が後を絶たないためです。
それもサメのひれだけを切り取る漁獲法(フィニング)で行われていました。
アメリカでは2010年にフカヒレ漁が全面的に禁止され、2011年にはフカヒレの売買と所持を禁止する州も出てきたほど。
しかし既成の所持品に限っては2013年まで売買してもよいとのことで、フカヒレの高騰を狙った密漁が行われたそうです。
冒頭のあの船は、まさにフカヒレの高騰を狙ってフィニングを行う密漁船だったのです。



ちなみに日本は、鯨漁と同じくサメの肉も有効活用する漁獲方のため規制には至っていません



しかし完全に徹底できているわけではないらしく、難しい問題です
つまり船長は密漁船の船長。眼鏡の男性はフカヒレを買い取る側の人間。
船長が眼鏡の男性にスープを出したのは、フカヒレの質を確認させるためでした。
しかし買い取る側としては手放しに褒めてしまうと値段交渉で不利になってしまうため、間を空けて「それなりにね」と返したのです。
初見時では「なんで喧嘩腰なの?」と思いましたが、2人は無意味に煽りあっているわけではありませんでした。



この2人の名前が気になる人は竹書房の小説『シャークネード サメ台風』をお読みください!



奇特すぎる
Sempa Paratusにこめられた意味
引用元:Youtube
こちらはアメリカ沿岸警備隊の公式軍歌です。
タイトルの「常に備えあり」がそのままシェパード家の家訓となっています。
フィンはプロサーファーとして活躍しつつ、協議の合間にパートタイムのライフガードとして浜の監視を務めていました。
母国の沿岸警備隊の公式軍歌を家訓とするライフガード。目の前で困っている人を見て見ぬふりできないのも分かる気がします。
この設定が本編では分からないため、フィンを英雄気取りの主人公のように受け取る人もいるのではないでしょうか。
このように細かい設定があるにもかかわらず、ほとんどは本編では明かされないまま小説で補完されます。



これらは日本人だからこそピンとこない内容なのかもしれません
なんといってもラストシーン


一度観たら忘れられない、といっても過言ではない衝撃のラスト。
公開から40年以上経った今なお、サメ映画界の原点にして頂点と(一部で)言われている『ジョーズ』のサメ撃退シーンに匹敵するほどの名場面だと勝手に思っています。刮目せよ。



実際に『ジョーズ』をオマージュしているシーンもあるんですよ!
さらには本編後、エンドロールのBGMもお楽しみ。歌っているのはアンソニー・C・フェランテ監督本人です。ちなみに歌詞はネタバレを含む。
一貫して描かれたテーマ
どうしても「空から降ってくるサメ」の印象が強い作品ですが、シャークネードはシリーズを通して「家族」がテーマとして描かれています。
サメ映画としてのインパクトは充分。
それに加えて、明確に直向きに描き続けた「家族」というテーマが多くの人を惹きつけたからこそシリーズ6作という快挙を成し遂げたのではないでしょうか。
本作から始まるサメとの戦いの果てにフィンが得るものとは。



レビューは書いていきますが、ぜひともご自身の目で確かめていただきたいです
本作のツッコミどころ
言ってしまえば最初から最後までツッコミどころしかないけれど、それでは身も蓋もありません。
というわけで個人的にツボだったところを4つ紹介します。
空から降ってくるサメ


まずこれ。真っ先にこれ。降ってこないなら観なかったまである。
「魚が空から降ってきた」という話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。
魚以外にも「その場にあるはずのないモノが空から降ってくる現象」のことを「ファフロツキーズ現象(fails from the skies)」または「怪雨(かいう、あやしのあめ)」といいます。
この原因として有力な説は竜巻。
実際に目を疑うような物体が降ってきた記録があるとはいえ、だからといってサメを竜巻で飛ばして降らせて映画にしようなんて完全に発想の勝利。
これはもうツッコミ待ちでしょう。好き。
ピンポイントサメアタック
「巻き上げられたサメが落ちてきている」のではなく人間に狙いを定めて降ってきている説。あると思います。
ひとつ教えとこう、サメは血の匂いに惹かれるだけじゃなく、獲物を鼻先で感知もするんだ。だから水のない場所に出ても、ヤツらは人を見分けて襲いかかる。顎で噛みつくくせに鼻先が前へ突き出てるだろ、邪魔じゃないのか。あそこにはな、”ロレンチーニびん”ってレーダー器官が詰まってんだ。ヤツらは動きを感知して、集団で人を襲う。
出典:竹書房文庫『シャークネード サメ台風』– 第八章 インターミッション より



あったわ



あったな
嘘に真実を織り交ぜて説得力を持たせる説明は、まさに詐欺師のソレである。
百歩譲って人間を狙って降ってきているとして、落下中ではなく、上空から地面に叩きつけられた後のサメに人間を襲う元気があるのでしょうか。
サメは魚類なので骨格が貧弱です。イルカやシャチの体当たりで内臓破裂を起こすこともあります。
高層ビルよりも上から落ちてきて無事で済むはずがないことは、ファフロツキーズ現象に遭遇した経験がなくとも分かります。
小説と称した解体新書にはこう書いてありました。
雲の上から落ちたらくたばるんじゃないかって?サメはイルカやシャチみたいな哺乳類じゃない、魚類だ。しかも全身の骨はギザギザの歯と顎を除けば、死んだら溶けちまう軟骨でできてる。博物館で顎以外のサメの化石、みたことないだろ。体が柔らかいんだ。
出典:竹書房文庫『シャークネード サメ台風』– 第七章 羊飼いは羊を選ばない より
その理屈はおかしい。
「魚類だ」の一言から感じられる力強さ。体が柔らかいからといって衝撃が無効になるわけではありません。
そして柔らかボディでダメージ無効と聞いて真っ先に思い浮かんだのが某世紀末のハート様でした。
まさかの先駆者。しかも最終的には負けます。
ガバガバ水位
完全に水に浸かって川となっている道路もあれば、車の行き来する乾いた道路もあります。
ビバリーヒルズのマンホールやプールからサメと共に吹き出すくらいの水量かと思えば、家の周囲は特に変わりありません。
降ったり止んだり、場面によって水位の上がり下がりが激しい1時間半となっています。
ちなみに小説版にて、大嵐にも関わらず外が明るい原因として「異常気象のせい」との補足があります。魔法の言葉。
フィン、海より山派説


ジェットスキーを運転している人物をよく見てみると、フィンとは髪型が異なります。
ジェットスキーの運転にはジェットスキー免許(特殊小型船舶操縦士)が必要になるため代役を立てたと思われます。こういったところでも楽しめるB級感。
ちなみにジェットスキーの運転中と同様に、サーフボードに立ち上がった際もカメラは引きの視点にはなりません。
かと思えばロープアクションのシーンでは、フィン演じるアイアン・ジーリング本人が活躍しています。
どこで何の技能が役に立つか分かりません。
まさかの小説化


すでに何度か挙げているように、竹書房さんより『シャークネード サメ台風』と題した小説が出版されています。
本文のクオリティは意外にも高く、B級感を残しつつの描写はなかなかに読ませてくれます。
小説として映画本編をなぞっているのはもちろん、本編では語られなかった設定について言及しているこの1冊は『シャークネード』の解体新書と言っても過言ではありません。
小説として本編を楽しむもよし、実は細かい設定について知るもよし。
そしてエピローグでは『シャークネード カテゴリー2』の冒頭にも触れています。



正直……続いてほしかった……



需要と供給が成り立たなかったのか
翻訳料も加算されているからか、カバーなしの文庫で700円台と少々お高いのがネックです。
Kindle Unlimitedにて配信されておりますので、興味のある方はぜひ。
『シャークネード』総評
B級映画、サメ映画、どちらの入門としてもおすすめできる作品です。
ただし入門におすすめとはいえ、B級映画の中でもサメ映画の中でも、これが最高レベルのクオリティです。
B級映画によくある尺稼ぎもほとんどなく、観ていて苦痛を感じるシーンがありませんでした。



3分間も無言で林の中を歩き続けたり、人を代えて同じことを繰り返したり、エンドロールを2回も流したりしないからな……



アレと比べてはいけない
※「アレ」については後日
一方でラストシーン以外では大きな盛り上がりに欠けており、1から観ると2を観る前に離脱してしまう可能性があります。
そのため個人的にはシリーズ2作目『シャークネード カテゴリー2』から観るのも選択肢の1つだと考えています。
1からでも2からでも、最終的にはシリーズを通して観ていただきたい作品です。
通常のDVD BOXに加えて、なんと2020年7月にはB級映画としては奇跡のブルーレイディスク版DVD BOXの発売が決定しております。
これを機にB級映画、サメ映画の世界を覗いてみてはいかがでしょうか。



責任は取りかねます!!